週間コーヒーコラム86

マイアミSCAAリポートその(3)
今回は初日後半ワークショップから、、、!

 では、マイアミリポートの3回目です。
今、5月19日(土)ですが、もう1ケ月経ったんですね。 帰国後はメンバーの情報交換がもの凄く、今までも1日50通のメールが飛び交ったりしましたが、1回の文が長い長い、、、。

 あっ、そうそう、ご注文のメールにマイアミリポートのご感想や励ましのメッセージを添えてくださり、ありがとうございます! 殴り書きのメモやメンバーのメール、おぼろげな記憶を頼りに書いてますので、結構しんどいです。 反応を頂くと、パソコンの前に向かう元気がでます。

 では、始めましょう!

 4月21日(土)午後からは、ワークショップを受講しました。
「 Sensory Training 1 : Tasting Kit 」1:30〜4:30pm 「テイスティングキットを使用しての味覚トレーニング」
こんな意味でしょうか。

 まずは、トレーニングを開始する前に説明です。

 「コーヒーは生豆を輸送する段階でも、ディーゼル車ならディーゼル車のロバならそれの臭いが付着してしまいます。 色々な原因で、それが液体に表れます。 またコーヒーを表現する際にリッチというような曖昧な言葉で表現するのではなくて、ワインのようなら、白なのか赤なのか? 白ならシャルドネのようなのか? 何なのか? 細かく分析していく必要があります。 ただ、これは先天的な味覚や難しいものというのではなく、継続してトレーニングしていくことで力がついてくるもので、そうすることで、味や香りを思い出したり、記憶したりします。記憶や経験によるところが大きいようです。」こんな内容が印象的でした。 テイスティング、カッピングの前の心構えといったところでしょうか。

*ステージ1 「味覚の統一」
 
15種類の特徴のある液体が入ったトレーニングキットを使用します。 まず、各テーブルに液体を2種類ずつ用意し、各自がコーヒーを紙コップに2杯ずつ取ります。 1杯はそのまま基準とし、もう1杯に溶液を1滴ずつ入れていきます。

  1. Salt, Peanutty, Nutty, Caramelly, Sweet, Sour
  2. Earthy, Winey, Chocolatey
  3. Fruity, Spicy, Grassy, Turpeny, Herby, Floral

これがその15種類です。 こうやって、コーヒーの特徴的な要素を覚えて、共通の物差しにしていくのです。 そうすると、ことばひとつで、そのコーヒーについて正確にコミニケーションできそうです。

 そしてこのトレーニングは、閾値がテーマになってます。

  • 検知閾、、、下の1)です。
  • 認知域、知覚閾、、、下の2)です。

通常、味覚閾値というと検知閾をいいます。また、認知閾は検知閾の1.5〜2.5倍といわれます。 それと、このように味覚を比較する場合、水で舌を洗って、味をみる方法と、今回のように、ベースになる味とそれを変化させた味をみる方法とあります。

1)コーヒーに何滴入れると、何か分からないけども、何かが入っていることが感じ取れるか?
2)コーヒーに何滴入れると、その特徴がなんであるか分かったか?
3)コーヒーに何滴入れると、もうこれ以上入れるのは嫌だと思うか?

これを各自が行なっていき、用意された用紙に記入していきます。 またその際に、コメントを書く欄もあり、自分にとってどんな風に感じられそれは何かに似ていたか? 似ていたならそれは何だったか? を記入します。 これを特徴を変え、繰り返し行なっていきます。 結局10種類を試しました。

 その結果は、とても興味深く、今まで、不快に感じていたコーヒーの持つニュアンスが実はサワーであったり、アーシーであったり、、、、印象的な発見でした。

 例えば、ベースになるコーヒーにSourを1滴入れます。 おっ! 変わった!(これが個人差があり、何滴で分かるか?あるいは、何の要素に敏感で、何が苦手か?、、、面白いし役にたちます) もう1滴、これは、あの時の不味い味だ!、、、、もう飲めない!

Chocolateyだと、おおおおっ、ココアのニュアンス、ミルクチョコレート、ビターチョコレート、、、。

「う〜ん、なるほど、、、。 あの不味い味はEarthyが原因だったのか! それで僕はメニューから打ち切ったのか!」

「あのコーヒーは、使い始めが魅力的だったのは、Winey、Floralを感じたからで、それが弱くなって、止めたのか!」

そんな考えが頭のなかをグルグル回ってました。

 一般的に苦みは感じやすく、酸味、甘みも感じやすいようです。(苦み酸味は毒を連想する味、甘みが生命維持につながる味) あとは、個人差があって、自分の感じやすい味香り、苦手なものは誰でもあるようです。

 カッピングも数人とやると人との違いが分かって、自覚しやすいですね。 となりの誰々はどうかな? 分かる? えっ、疲れてきた? そうなんです。 香りや味のチェックは非常に集中力、しかも1瞬の感覚を要求されるので、疲れます、感覚が麻痺します。 慣れるとひとつのカップを1瞬でとらえますから、数をこなせます。

 そんなトレーニングでした。 今までも、勿論僕なりに表現は工夫してきていたし、紅茶のキャリアもあるし、ワインの勉強もしてよそのジャンルから学ぼうとしていましたが、それは仲間に通じるものではありませんでした。 そこがおおきなポイントですね。

*ステージ2 「評価」
 ある1杯のコーヒーの中で、全体を100として、それぞれの特徴が何パーセント感じられたか? salt ○○%、sweet ○○%・・・・・計100

*ステージ3 「分析表」
 上記の数値を元に、クモの巣状の表に記入していき、見やすい形にまとめます。

 時間の都合で、2と3は出来ませんでした。

 このキットによって、各自がバラバラに感じていた味のイメージを統一することが出来、味の評価をする際、ブレンドなど味を作る際に、お互いに話し合うことが可能になりそうですね、楽しみです。 改めて、個人個人がしっかりと味を捕らえ、共通の物差しで表現していく重要性を感じました。

 この辺は、お客様にはあまり関係ないことかもしれませんが、正直僕はこのような環境やトレーニングメソッド、を25年間夢見ていました。

 自家焙煎店同士、味や品質の比較をしようとしても、或いは品質向上の為にコミニケーションをとろうとしても、「いいコーヒーだね」「これは、ちょっと、、、。」「僕はこれは、、、」そんなレベルの話しがほとんどです。 もう少し上でも「香り良いね」「抜けてるね」「表面焼けしてるね」「焙けてないね」そんな感じです。 共通の物差しが無いし遠慮もあるので、味の評価が自分勝手になるしかないのです。

 若い時はマスコミ等で有名な自家焙煎店主の方々がそういう道を切りひらいてくれるのかな? と期待してましたが、言葉と現実が違うのは何時の世も、ジャンルも一緒で、声の大きい人の天下! という事実が確認できただけでした。

 お客様はお金を払う側ですので、「このコーヒーは美味しいわ!」「好みじゃないわ!」「好き、嫌い、良い香り、、、、」そのような判断でいいですし、いえそのような判断のほうが良いと思います。

 しかし、お金を頂く我々プロは、自分の好みや自分だけに通用する表現では、困ります。(しかし今までも今現在もそういうレベルです)

 そうそう、ブラジル式のメソッドがありますし、大きなロースターさんにはブラジルの鑑定士の資格を持ったカップテイスターもいらっしゃいますが、それとは別の話です。 ブラジル式は主にリオ臭対策の為に開発されたもので、ネガティブチャックです。 欠点を探し、バルク(原料)コーヒー、コマーシャルコーヒーとしての品質管理のためのものです。

 SCAAのメソッドはポジティブチェックで(その前提として欠点もチェックしますが)どのようなアトラクティブ(魅力的な)な要素があるか! そこに重点が置かれています。 コーヒーを飲む人がどこに惹かれるか? ですね。

 あ〜!! 話しがコチコチ、固くなりました。

 ということで、SCAAのメンバーはトレーニングメソッドを築きあげてきたんですね。 たいしたものです。 当然、個人のちからや短時間では出来ませんので、情熱のあるメンバーが集まり、時間とエネルギーをかけてきたんですね。 コーヒーの質を上げるために、利害が反することもあるだろうメンバーが協力してきたんだろうと、想像します。(しかし、アメリカ全体から見ると、10〜20%以下の少数派のようです。ついて行けなくなった人、脱落した人、も当然多いでしょう)

 で、評価の物差しが出来ると、産地の方々にどういう品質の豆を求めているか! 伝えられますから、品質向上に向かえるんです。 パチパチパチ、、、!! 今ある最高の豆をかき集めるだけでは無くて、求める品質を伝えて、産地の方々に協力してもらう! モチベーションが上がらないと、幾ら品質向上を謳っても、無い豆は使えません。 では、スペシャルティコーヒーを生産する意欲を持ってもらうには、、、。 これからのテーマでしょう。(今も進んでいるようです)

 そして、我々珈琲の味方チームはそのスタートラインに立とうとしてます。 気が引き締まります。 物差しがあってのスペシャルティコーヒーですから。

 今日はここまで、いよいよ4階建てヨットでのブラジル招待船上パーティーに向かいます。

2001年5月19日 坂本孝文

 
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