焙煎とマーケティングの実際 11

さかもとこーひーの焙煎(6

 185℃でパチパチと「1ハゼ」がきます。同じ豆を同じ量、焙煎スピードで焙いていくと同じタイミング、温度でハゼがきます。

 ここから「2ハゼ、煎り止め」までが第3段階です。

 火力や焙煎量、或はニュークロップに変わるとハゼる温度がぶれます。勿論豆の種類が違えばハゼる温度も違います。

 ここからの第3段階が色が濃くなり、香りがこうばしく、豆が大きくふくらみ煙も徐々に増えてきます。豆の変化もスピードアップして刻々と豆の状態が変わってきます。

 余談ですが、私は焙煎を「乾熱調理」のひとつと認識しています。

 焙煎とは何だろうと思った時がありまして、まぁ「食品」には違いが無いし、「ロースト」だから「調理」の1種だろうと、、、。調理は「生の調理」と「加熱調理」に分けられ、さらに「加熱調理」は水を使う「湿熱調理」と水を使わない「乾熱調理」に分けられると知りました。

 「ロースト、焙く」という調理が「煮るや蒸す」と著しく違う点は乾熱による加熱であるということです。湿熱調理のように「水」という媒体を介しませんので、加熱が強力になります。この加熱が強力であることが利点にもなり、欠点にもなります。

 利点は「良い香りがつく」「きれいな焼き色がつく」「水分が少なくなる」等です。焼く調理は「煮る、蒸す」といった調理に比べて何か魅力のある美味しさを持っています。これは「煮る、蒸す」といった100℃以下の加熱調理では起らない各種の化学的な変化が、焼く調理では100℃以上で加熱するために起る結果 です。

 焼く調理のポイントは、換言すると「いかに状態の良いおこげを作る」かにあります。そしてこの「おこげ」は大別 すると3種の化学変化によって生成された物質が総合されたものです。つまり、
「糖類のカラメル化」
「脂肪の分解によるディープフライフレーバーの生成」
「アミノカルボニル反応によってできるメラノイジン」です。

「糖類のカラメル化」
 砂糖を強く熱するとあめ状になり、やがてきれいなきつね色に変わります。同時にとてもこうばしい香りがでてきます。さらに加熱して焦がすと炭化して黒くなり良い香りが無くなってしまいます。このきつね色の状態のものが「カラメル」です。
 砂糖やその他の糖類は100℃以上に加熱されると徐々に分子の形態が変化していきます。そしてカラメルの状態になると分子は大きな変化をおこします。その変化とは、「きつね色」になることと、「良い香り」が生まれることです。
 カラメル化は砂糖や糖類が180℃くらいで加熱されるとおこります。しかし、200℃以上になると炭化してしまいます。焙煎にとって「カラメル化」は良く知られている大切な状態です。カラメル化の程度によって苦味や香りの質が大きく変わります。

「脂肪の加熱と香り」
 同じサラダ油を使っても使っても、サラダ用のドレッシングの香りと、フライの香りとでは油の風味が大きく異なります。バターなどをそのまま味わうのと少し焦がしたバターソースで味わうのとでも大変な違いがあります。いずれも、油が加熱されることによって、新たな香りが生まれるからです。
 この香りは脂肪が加熱された時の複雑な化学反応によって出来るものです。その香りは脂肪を構成している脂肪酸の種類によって異なります。この脂肪が加熱して生まれる香りも糖類と同じように200℃を超えると良くない香りとなってしまいます。
 しかし、温度が低過ぎては化学変化がおきず良い香りが生まれません。適温は150℃以上、普通 は170〜180℃です。この脂肪分が加熱されて生まれる良い香りを「ディープフライフレーバー」と呼んでいます。
 コーヒーオイルの存在と状態が味、香りに大きな影響を与えます。深煎りにするとオイルが浮き出てきますが、表面 化しているだけで、浅煎り中煎りでもオイルは存在しています。そして加熱具合(焙煎度)によって香りが変わっていきます。

「アミノカルボニル反応」
 
これは糖類とアミノ酸、あるいはタンパク質がともに存在する時、150℃以上に加熱されるとおこる化学反応です。これによってできる物質は「メラノイジン」と呼ばれ、きつね色で良い香りがします。照り焼きやステーキ、ケーキを焼くときの香りなど、みなメラノイジンの香りです。
 このアミノカルボニル反応も200℃以上になると炭化して焦げてしまい、成分にタンパク質があるため毛糸を焼いたときのような焦げた嫌なにおいがでてきます。糖類、タンパク質ともに生豆に含まれています。

「良いお焦げをつくる条件」
 
なんといっても温度の調節が大切です。湿熱調理では水があるかぎり100℃以上に上がることはありません。ところが、乾熱調理では調節しないと相当に高くまで温度が上昇してしまいます。良いお焦げの香りをだすためにはカラメル、ディープフライフレーバー、メラノイジンの3つが上手くできることが必要です。
 良い香りを得るための温度の範囲はだいたい150℃から200℃の間です。都合の良いことに良い香りを出す3つのものがこの範囲の温度でできます。200℃以上になるとたいていのものは臭いが悪いほうへ変化します。あまり急速に加熱するよりある程度(コントロール可能なくらい)ゆっくり加熱したほうが良い香りを得るには適してます。
 つまり私の考える焙煎とは「焦げていない良いお焦げ」ということです。焦がすことを恐れて焙きが甘くなってはローストの魅力に欠ける。焦がしてしまっては台無しになってしまう。その間でコントロールしていろいろな香り味を楽しめる焙煎を目指しています。
「味のしくみ」日本放送出版協会 河野友美著 を参考にしました。

 といったところでずいぶんと長くなってしまいました。これを知ったからといって美味しく焙煎できるかどうかは分りませんが、私は焙煎を乾熱調理と意識しています。乾熱調理の良さが出るように焙煎、煎り止めしてます。

次回は1ハゼから煎り止めまでいきたいですね!

 
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